人は良くも悪くも環境の影響を受けます。
ポジティブな環境だとポジティブに物事を考えますし、
ネガティブな環境だとネガティブに物事を考えがちです。
自分はコンスタントに冷静に判断しているつもりでも、
先入観や事前の物事で意外と自分の言動が左右されているものです。
まったく関係のない物事が、その人の行動に影響を与えることはよくあります。
先に受けた刺激が後の行動に影響を及ぼすことを
「プライミング効果」と言います。
ちなみにプライミング効果は暗示効果とかプラシーボ効果(プラセボ効果)とかいろいろな言われ方をします。
ルーツなどが異なりますが、意味するところは一緒で、「事前に受けた刺激により物事を合理的に判断できなくなる心理」を指します。
補足記事:内胸動脈結紮のプラセボ効果 ~プラセボ効果とは?~
プライミング効果についての実験で、
1998年にオランダのナイトメーヘン大学の心理学者、アプ・ダイクステルホイスとアド・ファン・ニッペンベルクが行った実験があります。
まず被験者を2つのグループに分けます。
Aグループはサッカーのフーリガンについての文章を書いてもらいます。
※フーリガンとはサッカーの試合会場で暴力的な言動をする集団のことです。
Bグループは有名な教授についての文章を書いてもらいます。
その後、両グループともに常識問題を解いてもらいました。
問題内容は一緒です。
結果、
フーリガンについて書いたAグループの常識問題正解率は40%。
有名教授について書いたBグループは正解率60%でした。
事前に考えていた内容が、その人のモラルに影響を与えたのです。
プライミング効果は私達の生活のいたるところで関わります。
パソコンの壁紙を紙幣の柄にすると、
人は自己中心的になりがちで、寄付をしぶるそうです。
面接を受けにきた人にアイスコーヒーを出すと、
面接官に冷たい印象を持つことが多いそうです。
清潔なにおいのする部屋にいると、
人はそれまでよりきれい好きになるそうです。
プライミング効果はうまく利用すれば自分の習慣や考えを変えることに役立ちます。
プライミング効果について興味深い実験があります。
ブレーメン国際大学の心理学者、イェンス・フェルスターの実験です。
フェルスターは参加者を2つのグループに分けます。
一方に「過激で反社会的な生き方(パンクな生き方)」について、
他方に「保守的で論理的な生き方(典型的な技術者)」について考えて書いてもらいました。
その後、全員に創造力を試すテストを行うと
「過激で反社会的な生き方」を考えたグループのほうがはるかに創造的な回答をすることができました。
創造力を促すような考えを先にしておくと、自分の創造力も上がるということです。
しかしこの実験には続きがあります。
たとえばレオナルド・ダ・ヴィンチのような偉人を考えるとむしろ創造力はしぼんでしまうそうです。
特定の誰かではなく、「~のような生き方」といったおおざっぱなカテゴライズにとどめておく方がプライミング効果の恩恵はあずかれます。
偉人や具体的な人物だと、人と自分を比べてしまい「あの人に比べたら自分は平凡だ」とか「自分はあんな風にはなれない」といった感情が邪魔をしてしまうのです。
その他の記事
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後回しを克服する方法、人の記憶に残る方法 ~ツァイガルニク効果~
【参考文献】
リチャード・ワイズマン『その科学が成功を決める』文春文庫、2012年