お金を渡すとむしろやる気がなくなる(2)

市場規範とは
「~円もらえたら~する」というようにお金に換算して物事を判断する考え方です。

一方、社会規範とは
「○○さんのために」「○○に貢献したい」といった信条で行動する規範です。

前回の記事で実験を例に出し、これら2つの規範について考えました。

前回の記事:お金を渡すとむしろやる気がなくなる(1)

人はお金のためでもそこそこ動きますが、
親切心とか社会を意識した行動のほうがより人を動かします。
つまり社会規範の方が市場規範より人を強く動機付けするのです。


ちょっとしたプレゼント


前回と同様の実験を、報酬を変えて行われた例があります。

作業は同じで、
パソコン上で円をドラッグする単純作業を5分間で何回できるか。

被験者を3つのグループに分けます。
A:報酬が、500円相当のチョコレート
B:報酬が、50円相当のチョコレート
C:報酬なし

報酬が現金ではなくプレゼントになりました。

当然、被験者は他のグループの存在は知りません。
また、A,Bに関してはプレゼントの金額は知らされていません。

結果、3つのグループの作業量は
A:162回
B:169回
C:168回
となりました。

プレゼントを渡しても渡さなくても、プレゼントの程度が違っても、
モチベーションはほとんど一緒でした。

前回の実験も踏まえると、作業料としては
報酬なし=プレゼント>現金 となりました。


さらに興味深いことに


補足実験として、チョコレートの金額を事前に伝えた上で作業をしてもらいました。

チョコレートの金額が明らかになった場合、
各グループの作業量は現金を渡したときと同じ傾向になりました。

つまりAグループのほうがBより作業を多くこなせて、
しかしAもCも作業量がほぼ同じ結果になったのです。


なぜなのか?


なぜこんなことが起こるのでしょう?
報酬が現金であろうとプレゼントであろうと、かかったコストは同じなのに。

これらには市場規範と社会規範の入れ替わりが関係します。

現金を報酬として実験に参加した人達は、
自分達が実験のために「雇われている」という感覚です。
つまり市場規範で作業をこなしたわけです。

一方、報酬なしで実験に参加した人達は、
実験に親切心で「協力している」という感覚です。
つまり社会規範で作業をこなしたわけです。

では報酬がプレゼントの場合。
このとき、人はプレゼントはあくまで相手の善意でありお礼であり、
自分は実験に親切心で協力しているという意識は変わらないのです。
つまりプレゼント渡しても社会規範は維持されたのです。

しかし、チョコの金額がわかった場合は「雇われた」という意識になります。
このときは社会規範が市場規範へ変化してしまったのです。


実験からわかること


報酬が現金であった前回の実験と、
報酬がプレゼントであった今回の実験からわかることをまとめます。

・市場規範より社会規範のほうが人のモチベーションを高める
・お金と異なりプレゼントは社会規範を崩さない
・しかしプレゼントがより大きな動機を生むかというとそうではない。

このように見ると、プレゼントは作業量を増やす要因にはなりません。
ではプレゼントあげるのは損なのでしょうか?
一概にそうとも言えません。

社会規範とは「誰かのために」といった親切心や社会性が根底にあります。
そのため互いの信頼関係や良好な人間関係が必要です。

プレゼントは自分の感謝の気持ちや好意を伝える手段になりえます。
プレゼントはそれ自体が人のモチベーションを高めるわけではありませんが、人間関係の維持には役立ちます。

お金ではないお礼やプレゼントは、
人のモチベーションを高めるのではなく、
人の社会規範を維持する役割を持っていることがわかります。

次回、市場規範と社会規範の性質をさらに見ていきます。
次回に続きます。

次の記事:お金を渡すとむしろやる気がなくなる(3)






【参考文献】
ダン・アリエリー『予想どおりに不合理』早川書房、2013年