お金を渡すとむしろやる気がなくなる(3)

物事をお金に換算して行動を決めるのが市場規範
親切・名誉といった気持ちで行動するのが社会規範

市場規範や社会規範について考える続きです。

前回の記事:お金を渡すとむしろやる気がなくなる(2)


おさらい


人はお金が絡むとそれなりのモチベーションは保てます。
モチベーションの高さはお金の高さに比例します。

しかしながら、
お金で保てるモチベーション、つまり市場規範には限界があります。

結局は
「誰かのために」とか「○○に貢献したい」といった
自発的な気持ち、社会規範からくるモチベーションには敵いません。

また、お金というのは労力の対価に支払われることがほとんどです。
労力の対価に支払われるものは他にもプレゼントやお礼の品といったものがあります。

しかしプレゼントやお礼の品はあくまで気持ち。
プレゼントを相手の気持ちと考える限り、お金に換算しない限り、人は社会規範で動きます。

けれどプレゼントの金額を公表してしまうと、途端に市場規範が台頭します。
プレゼントの額を安易に言わないという社会のマナーは心理学的にも理にかなっているわけです。


託児所の事例


市場規範と社会規範の関係性がわかる事例でおもしろいものがあります。

イスラエルのある託児所の事例です。

その託児所では子供を迎えにくるのに既定の時間より遅れてくる親御さんがときどきいました。
日本でもありそうな状況ですね。

そこで託児所側は迎えに送れる親御さんたちに対して対策を考えます。
そして導入されたのが罰金制
時間が遅れるに従って罰金をとるようにしたのです。

結果どうなったでしょう?

迎えに送れる親御さんは以前より増えてしまいました。


なぜなのか?


罰金制度の導入前は、親御さんは少なからず遅れることに申し訳なさを感じていました。
「職員に迷惑をかけてしまった」「他のお母さんの目が気になる」といった動機です。

社会性から遅れることは良くないことだと認識していたのです。
つまり以前の託児所は社会規範により支えられていました。

それが罰金制を導入すると、「お金さえ払えばいいや」という感覚になってしまったのです。

つまり社会規範が市場規範へと入れ替わり、
「迎えに遅れないようにする」というモチベーションが下がってしまったのです。



託児所のその後


罰金制導入後、むしろ増えてしまったお迎えの遅刻。
これではいかんと託児所側は罰金制を廃止しました。

しかし残念なことに、
罰金制を廃止しても迎えに遅刻する親御さんの数は罰金制導入前の数には戻りませんでした。
託児所は罰金をとれず前より遅れる人が多い状況になってしまったのです。

この事例からわかる大切な教訓があります。
それは社会規範が市場規範になってしまうと、簡単には元には戻らないということです。


まとめ


社会規範と市場規範の性質についてまとめます。

社会規範は市場規範より大きなモチベーションを生みます。
お金のために頑張ることには限界があるのです。

社会規範と市場規範を人は同時に持つことはできません。
お金を払って異性と性行為をして愛を感じられる人は少ないでしょう。

そして社会規範と市場規範が同じ場面に出くわしたら、市場規範のほうが優勢になりがちです。

さらに社会規範が市場規範に一度入れ替わってしまうとそれを元に戻すことが非常に困難です。

お金でない人間関係は貴重であること、
それらが一度お金に換算されると以前のような関係性は二度と戻ってこないかもしれないこと。

これらを教えてくれる大切な教訓です。






【参考文献】
ダン・アリエリー『予想どおりに不合理』早川書房、2013年