「内胸動脈結紮(ないきょうどうみゃくけっさく)」とは1950年代に行われていた狭心症に関する手術方法です。
麻酔をかけ患者の胸骨を切開し、内胸動脈をしばるという手術です。
この手術方法に疑問を持った医師がいました。
心臓医、レナード・コブです。
コブたちは内胸動脈結紮に本当に効果があるのか疑問をもっていました。
そしてなんとも大胆な調査をするに至ったのです。
コブ医師は狭心症を患う患者を2グループに分けました。
一方は内胸動脈結紮を行うグループ。
そしてもう一方は内胸動脈結紮を行ったと言って、実際何もしなかったグループです。
調査の結果、
なんと手術を行ったグループもそうでなかったグループも
直後は胸の痛みがなくなったと言い、3カ月後再び胸が痛いと言いました。
手術をしようがしまいが、
手術をしたと思いこむことで短期的に痛みは和らぎ、そして痛みは戻ってきたのです。
内胸動脈結紮という患者の胸を切るたいへんな手術は、実は医学的にはなんの効果もなかったのです。
そして患者の痛みを和らげているのは「効果がある手術をした」という思い込みからくるものだったのです。
このように、実際は効果がないのに効果を感じたように思いこみ、
それが実際の感覚や行動に影響が出ることをプラセボ効果と言います。
「プラセボ」は「私が喜ばせよう」というラテン語からきています。
葬式で涙を流すサクラを努める「泣き屋」を指す言葉としても昔つかわれていました。
プラセボ効果には2種類あります。
一つは思いこみ。
「この手術は効果がある」「この人の言うことは正しい」
「こうしたら幸せになれる」「みんながおいしいと言っている」
このような思いこみ、あるいは信頼や確信といった思いがプラセボ効果を引き起こします。
そしてもう一つは習慣。
「毎朝、乾布摩擦をしている」
「寝る前に鏡の前で自分を褒めてあげている」
その行動が習慣化し、自分にプラセボ効果を与えてくれるパターンがあります。
プラセボ効果はけっこう私達の身近にあります。
たとえば風邪薬は好きなブランドや、高い価格の方が効くように人は感じるようです。
医学的にはっきりとした根拠はなくても、
信頼のある人にマッサージをしてもらうとずいぶんと楽になった気がします。
根拠がないのに確信をもってしまうことというのはけっこうあります。
【参考文献】
ダン・アリエリー『予想どおりに不合理』早川書房、2013年