「3人寄れば文殊の知恵」というように、人が集まることで大きな力になることを示す教訓は多くあります。
一方で、「赤信号、みんなで渡れば怖くない」というように人は集団になると個人では到底やらないような馬鹿げた行動や極端な思考に陥ってしまうのも思い当たる節があります。
人は集団と個人ではどちらが優秀なのでしょう?
あるいは
優れた個人と凡庸な集団ではどちらが優れた意思決定ができるのでしょう?
今日はこの集団と個人の関係性について見ていきます。
個人と集団の関係性の基本は、
「適切な条件下では平凡な人達が集まった集団のほうが優れた個人よりも優秀な判断を下せる」ということです。
では「適切な条件下」とはなんでしょう?
ここがポイントで、集団は特定の条件がそろったときのみ優れた力を発揮します。
常に個人より集団が優れているわけではないのです。
優れた集団であることの条件は多様性と独立性です。
多様性とは集団の中にいろいろな人がいることです。
偏った集団や考え方だけで構成された集団は偏った判断しかできないので、結局のところ個人と大して変わらない選択しかできません。
集団が集団である強みは多様性です。
続いて独立性も大切です。
独立性とは個々が自分の考えを持って判断することです。
声が大きい人が一人いて、みんながそれに迎合するような集団では集団の意味がありません。
各々が考え、多様な意見の中から折衷案を出すことで集団は優れた力を発揮します。
このように考えると、集団の中の人同士で綿密に意見を事前に話し合うことは好ましくないかもしれません。
話し合う段階で意見が偏っていくからです。
周りの意見を知らない状態で各々が思ったことを素直に言ったほうが結果として優れた集団の意思決定ができます。
瓶の中のジェリービーンズという実験があります。
瓶の中に敷き詰められたように小粒のお菓子が入っています。
この瓶の中にジェリービーンズが何個入っているか予想してもらいます。
実際に数えたりするわけではないので、ぱっと見で勘で答えるわけです。
このとき、集団の解答の平均が正解に近い解答になることが多いのです。
このように、集団は知識や技術では解決できない直感が必要な問題に強いのです。
さきほどの実験ではもちろん集団の平均より正解に近い数を出す個人はいます。
しかし実験を5回10回と繰り返していくと、集団の平均より成績がいい個人はどんどん減っていきます。
集団は安定した意思決定ができるのです。
反対に個人は時として最善の解答を出すこともできますが、それが長く続くかというと微妙なのです。
問題解決にはその道の専門家に聞くのが一番というイメージがあります。
しかし実際は異なります。
専門家はその道に詳しいぶん、その分野の固定観念や先入観も大きいのです。
優れた意思決定には、
専門家のアドバイスを下に集団で結論を出すというスタイルが一番です。
ここでもポイントになるのがあくまで専門家の意見は参考なのであって、集団がそれに流されてはいけないという点です。
多様性と独立性が保たれた集団であれば、そのその集団は優れた個人よりも優れた意思決定をしてくれます。
集団は「前例のない問題」「直感が必要な問題」「予測がつかない問題」などに力を特に発揮します。
あなたがもしも何かの問題に直面したら、「みんなの意見」を聞いてみたらいいでしょう。
ただしみんなが集まったときではなく、別々にそれぞれの純粋な意見を聞いたほうがいいかもしれませんね。
それも年齢性別問わず、自分が仲の良い人悪い人問わずいろいろな人を対象にすればなお良いでしょう。
【参考文献】
ジェームズ・スロウィッキー『「みんなの意見」は案外正しい』角川文庫、2006年