あなたの目の前にパソコンがあります。
画面の左側に何の変哲もない円の図形があります。
右側には同様に何の変哲もない四角の図形。
あなたは円の図形をマウスでドラッグします。
四角のところまで円をドラッグしたらOK。
簡単で、単純で、誰にでもできる作業です。
これを5分間します。
できるだけたくさん繰り返して下さい。
アメリカでこのような実験が行われました。
人間のモチベーションに関する実験です。
被験者は行う作業こそ同じであるものの、
3つのグループに分けられました。
A:報酬として5ドル(約550円)もらえるグループ
B:報酬として50セント(約55円)もらえるグループ
C:報酬がないグループ
A,Bグループに関しては事前に報酬額を伝えました。
Cグループに関しては、「協力してくれませんか」と頼みごとをする形で実験に参加してもらいました。
さて、A,B,Cどのグループが最もやる気が高かったでしょう?
結果です。
実験の作業を最も多くこなせたのはCグループでした。
具体的には、円をドラッグした数は平均は
A:159回
B:101回
C:168回
となり、C>A>>Bとなりました。
お金をより多くもらったAグループのほうがBグループよりあきらかに作業量が多かったのは当然と言えば当然でしょう。
興味深いのは、
何も報酬がなかったCグループのほうが報酬をもらったAグループより同等かそれ以上の作業量をこなせたのです。
私達が物事を考え判断する上で、適当に決めたりまっさらの状態で考えたりすることは稀です。
たいていは何か考える基準があります。
つまり規範があるわけですね。
「これはお金に換算するといくらだろう?」
とお金で自分が行動するか否かを決めるのを市場規範と言います。
一方で、「誰かのために親切にしよう」
といった損得とは別のところで決めるのを社会規範と言います。
先ほどの実験ではまさに
Aグループは市場規範、Cグループは社会規範で行動してもらったわけです。
そして、
市場規範より社会規範のほうが人のモチベーションを高めたわけです。
なんとなく心当たりがある教訓ですね。
「タダより高いものはない」とよく言いますが、
お金(市場規範)で得られるモチベーションというものはたかだか知れていて、
信条に訴えかけるような動機(社会規範)のほうが人は多くの労力をさくわけです。
この「市場規範」と「社会規範」の関係性はビジネスや人間関係でけっこう重要です。
次回、もう少し別の角度からこの2つの規範を見ていきます。
次回に続きます。
次の記事:お金を渡すとむしろやる気がなくなる(2)
【参考文献】
ダン・アリエリー『予想どおりに不合理』早川書房、2013年