制服に着替える時間は労働時間か?
仕事によっては、会社が指定する制服やユニホームに着替えて業務にあたる人も少なくないでしょう。
ではこの制服に着替える時間は労働時間なのでしょうか?
例えば始業時間が8時30分の工場勤務で、
8時30分に着替えをして8時35分に作業所に入室したらそれは5分の遅刻なのでしょうか?
今日は制服に着替える時間と労働時間について考えます。
結論としては、
制服に着替える時間は労働時間に含まれます。
「始業時間までに制服に着替え終えておく」という感覚を持つ人が多いと思いますが、それは先入観。
日本は制服に着替える時間が労働時間に含まれる国です。
以下、その根拠を見ていきます。
法律と判例と制服に着替える時間
まず原則として日本の働き方は労働基準法に従います。
会社がどんな就業規則を決めようとも、労働基準法という国の法律が優先されます。
では労働基準法に明記されていないことはなんでもありなのか?
そんなことはありません。
労働に限らずですが、
法律に明記されていない場合は主に判例などで物事の良し悪しを判断します。
判例とは過去の裁判の判決事例のことですね。
法律で枠組みとなるルールを決め、それより細かい微妙な事案は判例などを参考に臨機応変に判断することになります。
では、制服に着替える時間についてどのように解釈されているのでしょう。
制服に着替える時間を労働時間に含むか否かについて労働基準法には明記されていません。
それでは続いて判例ではどうでしょう?
制服に着替える時間について最も有名な裁判の一つに平成12年に最高裁で行われた三菱重工長崎造船所事件があります。
三菱重工長崎造船所事件はまさに着替える時間が労働時間に含まれるか否かについての裁判でした。
この裁判の結果、
制服に着替える時間は労働時間に含まれるという判決が出ました。
つまり、制服に着替える行為は労働時間内に行うか、労働時間外に行うことを強制するのであればその分の賃金を支給する必要があるということです。
「制服」の定義
上記の裁判の判決にはいくつかのポイントがあります。
以降、それらポイントを見ていきます。
まず、ここで言う「制服」や「ユニホーム」とは、
雇い主側が労働者に着用することを義務付けている服装を指します。
つまり本来は制服を定めていないのに自分の私服を「仕事用」として勝手に着替える場合は「制服」にあたらないということです。
反対に就業規則で文字として明記されていなくても、その服を着用することを余儀なくされている状況であればそれは「制服」と見なされます。
例えば衛生面などのリスクがある看護師さんの服。
健康被害が想定されるような工場に勤める人のマスク。
これらは身に着けないわけにはいけませんよね。
またその服装が「制服」に該当するかの判断として、
その服を着用した状態で通勤可能かというのもポイントになります。
その服を着たまま通勤することが禁止されていたり、職場で着替えることが義務付けられている場合もやはりそれは制服になります。
また通勤が規則として制限されていなくても、
その服装のまま通勤することが明らかに困難な場合も制服と判断されます。
例えば土木関係で泥だらけの制服や医療関係で血だらけの制服で電車に乗るのは明らかにおかしいですよね。
「制服」と見なされる条件として着替える場所が指定されている必要もあります。
どこでも着替えていいのであれば、実質的に家で着替えて通勤することが可能だからです。
しかしこれも同様に明らかに特定の場所でしか着替えることが困難な場合は制服と解釈されます。
補足ですが、
勤め先の入り口から更衣室までの移動は労働時間に含まないという判断が出ています。
あくまで労働時間は着替える時間とういうことです。
まとめ
労働時間とは、労働者が雇い主の指揮命令下におかれている時間です。
よく、「始業前に仕事に取り掛かれるような状態になっておけ」といった常識を振りかざす上司は多いものです。
でも実際は仕事に取りかかるための制服も掃除も準備も、それが会社側から強制されているのであれば労働時間です。
この強制とは規則に書いてあるか書いていないかではなく、強要されそれをしなければ実際的精神的に不利益を被る場合です。
日本人は空気を重んじて、仕事に付随するいろいろな作業を自分の時間で消化しがちです。
けれど本当は自分の時間をもっと大切にしてもいい。
会社の洗脳にできるだけ早く気づくべきです。
あなたが無給で仕事に費やしている時間は、あなたの貴重な人生の時間そのものなのですから。
その他の記事
参考資料
・『平成7(オ)2029』(最高裁判所判例集)2017年11月18日検索
・『更衣時間は労働時間?制服に着替える時間は労働時間でしょうか?』(社会保険労務士山口事務所)2017年11月18日検索