「オトナ帝国の逆襲」のひろしの回想シーン
「クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」。
「大人も感動するクレヨンしんちゃんの映画」として高い評価を受け、歴代最高傑作の1つとも言われるオトナ帝国。
そんなオトナ帝国において、作中の最も感動するシーンと言えばひろしの回想シーンでしょう。
今日は「オトナ帝国の逆襲」の解説です。
「オトナ帝国の逆襲」という作品
古き良き昭和の世界観を取り戻そうと大人達を操る組織「イエスタデイ・ワンスモア」。
彼らの洗脳により子供になってしまう大人達。
その代償として未来が奪われてしまうかもと、しんちゃん達「カスカベ防衛隊」および野原一家は未来を取り戻すために「イエスタデイ・ワンスモア」のリーダーであるケンのところへ乗り込む。
「オトナ帝国の逆襲」はノスタルジーへのアンチテーゼが1つのテーマとなっています。
2005年の「ALWAYS 三丁目の夕日」をはじめとして、
2000年代は「昔ってよかったよね」というノスタルジーを肯定する風潮があった中、
「オトナ帝国の逆襲」は「過去を懐かしむ」気持ちを認めつつ、それでも「未来」の大切さに重きを置いた作品です。
そんな「あの頃は楽しかったなあ」という無邪気な子供時代に戻りたい気持ちと、多忙だけど家族と過ごすかけがえのない「今」との葛藤がオトナ帝国を見た大人の涙を誘います。
ひろしの回想シーン
しんのすけ「父ちゃん、オラがわかる?」
ひろし「ああ。ああ!」「クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」より引用
子供の頃に戻って子供のまま過ごそうとするひろし。
しんのすけが靴の匂いをかがせることで現実に引き戻します。
自分のこれまでの人生を思い出し、泣きながらしんのすけを抱きしめるひろし。
その後ひろしは家族と共に未来を取り戻すためにケンとチャコに挑みます。
回想シーンの解説
ひろしの涙には、どんな思いが込められていたのでしょうか。
これは単純に「昔がよかったなあ」という過去の肯定だけでは説明がつかないでしょう。
先述の通り、
「オトナ帝国の逆襲」は未来の大切さを描く一方で、過去の懐かしさを完全に否定しているわけではありません。
終盤、ケンが作った懐かしい街の人々は、野原一家の必死の頑張りに心を打たれて未来を選びます。
一方で、ケンが野原一家に敗れ組織を解散させるとき、ケンが作った街の人々はそのことに涙を流します。
このように、
懐かしく愛着のある過去を持ちながら、それでも未来を生きていくという葛藤が「オトナ帝国の逆襲」では描かれています。
これは大人であるひろしもおそらく同様で、
今を生きることゆえに懐かしい過去を失っていく寂しさ。
けれどその今にはかけがえのない家族との日々がある。
そんな葛藤があったのではないでしょうか。
洗脳から目が覚めて、子供から大人に戻ったひろしは、
「やっぱり過去にはもう戻れないんだなあ」という郷愁がまずあり、そして
「過去に囚われて自分が一番大切なはずの家族を忘れてしまっていた」という自分への情けなさがあり、けれど
「今がどんなに素晴らしくても、完全には否定できない心惹かれる過去がある」ことへの葛藤が、ひろしを涙させたのではないでしょうか。
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