有給休暇は本来、労働者の権利です。
有休は労働者が休みたいときに自由にとることができます。
一方で、例えばは同じ日に社員が全員休んでしまったら会社はまわらないわけです。
病院などは特に問題ですよね。
そんな感じで、会社側には状況によっては有休をとる日を別の日にしてもらうようお願いする権利があります。この権利を時季変更権と言います。
時季変更権のポイントは会社が労働者に有休をとらせない権利ではなく、あくまで有休をとる日を別の日にずらしてもらう権利です。
ここで気になるのが、具体的にどういった場合に時季変更権が適用されるのか?
時季変更権の基準に明確なルールはありません。
裁判の判例を下に状況に応じた判断をしていくことになります。
今日は有休取得に関する判例を見ながら、
どんなときに有給休暇の申請が通らないのかを考えます。
こちらは時季変更権が認められなかった事例。
つまり労働者が希望した日に休めた事例です。
社員Aが有給休暇を申請しました。
ちなみにその日はAの代わりに社員Bが出勤する予定になっていました。
しかし、社員Aは有休を使って社会運動(今回の事件では成田空港反対運動)に参加することが上司からしたらみえみえ。
上司的には会社の者が社会運動に参加されるのは困る。
そこで上司は社員Bに相談し、その日はBに休んでもらうことに。
これで現場は社員Aがいないとまわらない。
上司は「休みをとられると現場がまわらない」という理由で有休の申請を拒否しました。
これの事例に対し裁判では「本当は休ませようと思えばできるのに、有休の理由が気にくわないから休ませないようにしてるよね」ということで時季変更権は却下。
こちらは時季変更権が適用された事例。
つまり労働者が希望日に有休をとれなかった事例です。
ある会社の社員Aが始業時間前に会社へ電話。
その電話は宿直員が受けました。
社員は今日、有休が欲しいとのこと。
結局、社員はその日の午後に遅れて出社。
上司はこの遅れた時間を有休として処理するか悩みました。
事前に連絡はあったものの、それは当日の朝。
直前に連絡されては会社の業務が滞るのも事実。
しかし社員にも何か事情があったのだろう。
上司や社員に今朝は何か事情があったのか聞きました。
しかし社員は理由を答えません。
そんなことがもう一度ありました。
この2回にわたる理由なしの有休申請について裁判が起こりました。
裁判の結果、時季変更権は認められました。
こちらも時季変更権が適用された事例。
つまり労働者が希望日に有休をとれなかった事例です。
ある会社の社員が1カ月間連続の有給休暇を申請しました。
つまり約4週間におよぶ有給休暇です。
会社側は
・社員に1カ月連続で休まれると業務に支障が出る。
・その期間中ずっと代替要員を準備することは難しい。
・せめて後半の2週間だけでも別のときにしてほしい。
という提案をしました。しかし社員はそれでも4週間連続でとりたいと言いました。
裁判の結果、会社の主張が認められました。
つまり社員は前半の2週間までしか有休はとれませんでした。
ポイントとしては、
・実際に客観的に見て業務に支障が出ていた。
・「後半の2週間だけでも別のときにしてほしい」という会社側の社員に対するできる限りの配慮の姿勢があった。
という点から会社の判断は合理的という見解でした。
以上を踏まえ、まとめます。
原則として時季変更権が認められるには、
・客観的に業務上支障が出ることが認められること
・会社側がそのような運営体制に対し改善努力や労働者への配慮が見られること。
が必要です。
さらに弘前電報電話局事件の判例から、
社員が有休をとる理由が気に食わないからというだけでは時季変更権は適用できない。
電電公社此花電報電話局事件の判例から
実際に会社に客観的に迷惑をかけたのに、休んだ理由も言わないような態度だと時季変更権が適用されても仕方ない。
時事通信社事件の判例から、
有休の連続取得日数が長ければ長いほど、時季変更権は認められやすい。
時季変更権が適用されると、その日に社員は有休をとれません。
以上を参考に、業務の流れを見ながらできるだけ自分がとりたい日に有休をとれるようスケジューリングしていきましょう。
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【引用・参考サイト】
『弘前電報電話局事件』(裁判所)2018年2月12日検索
『電電公社此花電報電話局事件』(裁判所)2018年2月12日検索
『時事通信社事件』(裁判所)2018年2月12日検索