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ヨレンタの覚悟
チ。 ―地球の運動について― 第20話 私は、地動説を愛している(ABEMA)より引用
ヨレンタの最後の登場回である第20話。
自身を犠牲に地動説を守る決意をすでにしているヨレンタの、人生の集大成ともいえる思想が語られる回です。
解説
ドゥラカに手紙を託すヨレンタ
チ。 ―地球の運動について― 第20話 私は、地動説を愛している(ABEMA)より引用
ヨレンタ「あなたは若いから。
別の言い方で言うと、今はあなた達が歴史の主役だから。
だからあなたに託す」ドゥラカ「だから、勝手に巻き込まないでくれます? 私はその歴史ってのに関係」
ヨレンタ「関係ある。
人は、先人の発見を引き継ぐ。
それもいつの間にか勝手に、自然に。
だから今を生きる人には、過去の全てが含まれてる」チ。 ―地球の運動について― 第20話 私は、地動説を愛している(ABEMA)より引用
オクジーの意向(ポトツキに利益の1割を渡す)を書いた手紙をドゥラカに託すヨレンタ。
この時点ではドゥラカはヨレンタが自爆することを知りませんから、手紙を託されることに懐疑的。
しかし無関係を主張するドゥラカをヨレンタは一蹴します。
なぜ、人は個別の事象を時系列でとらえるのか?
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ヨレンタ「なぜ人は記憶にこだわるのか?
なぜ、人は個別の事象を時系列でとらえるのか?
なぜ、人は歴史を見出すことを強制される認識の構造をしているのか?
私が思うにそれは、神が人に学びを与えるためだ。
つまり歴史は、神の意思の下に成り立ってる。ドゥラカ「神の意思? なんですか? その意思って?」
ヨレンタ「聖書に書いていある。
神はこの世にある悪を善に変える。
それが神の意思。
神は人を通して、この世を変えようとしてる。
長い時間をかけて少しずつ。
この今は、その大いなる流れの中にある。
とどのつまり、人の生まれる意味は、その企てに、その試行錯誤に、善への鈍く果てしないにじりよりに、参加することだと思う。
悪を捨て去ることなく飲み込んで直面することで、より大きな善が生まれることもある。
悪と善。
2つの道があるんじゃなく、全ては1つの線の上でつながっている。
そう考えたら、かつての浮きふしさえも、何も無意味なことはない。
でも歴史を切り離すとそれが見えなくなって、人は死んだら終わりだと、有限性の不安に怯えるようになる。
歴史を確認するのは、神が導こうとする方向を確認することに等しい。
だから過去を無視すれば、道に迷う」チ。 ―地球の運動について― 第20話 私は、地動説を愛している(ABEMA)より引用
宗教的思想が強いですが、要するに「良いことも悪いことも1つの結果に辿り着く過程である」と考えるヨレンタ。
このあたりは後のラファウも似たような考えを語っており、おそらくは作者が考える本作の思想の1つと考えます。
大きな流れの中に個々の存在があり、それは点で見れば善・悪があるものの、結局は大きな1つと流れであるという解釈。
愛してしまったことを、祝福したいから
ドゥラカ「抽象的過ぎる」
ヨレンタ「私には具体的な問題」
ドゥラカ「どこか?」
ヨレンタ「歴史認識は私の決断に関わるから。
例えば、私の父は異端審問官だった。
私は父とまったく違う道を歩いた。
今父が何をしているのかは知らない。
生きているか、そうじゃないのかすらね。
もう二度と会うことはないだろうけど、時々想像する。
もし今の私が父と対峙したら、道を阻まれたら、どうなるだろうって。
考えただけでそれは人生最悪の瞬間で、混乱して平静を失うと思う。
でも、そのときにこそ、正しいと思った選択をしなきゃいけない。
きっとその一瞬の選択のために、私の数奇な人生は存在する。
積み上げた歴史が、私の動揺を鎮めて、臆病を打破して、思考を駆動させて、いざってときに引かせない。
全歴史が私の背中を押す」ドゥラカ「なんで、なんであの本のために、そんな理屈こねてまで」
ヨレンタ「私は地動説を愛してる。
そして、愛してしまったことを、祝福したいから」ドゥラカ「そんなの幼稚だ」
ヨレンタ「そう。
だからあなたが乗り越えて」チ。 ―地球の運動について― 第20話 私は、地動説を愛している(ABEMA)より引用
要するに、これまでの決断や価値観に矛盾しない選択をする。そう思えることでこれからの決断力も維持できると考えるヨレンタ。
ヨレンタにとってはこれ以上にない強い思い・価値観・真理なわけですが、ドゥラカは「そんな理屈こねてまで」とあくまで冷静にヨレンタを見ます。
「いざってときに引かせない」と、コルベから言われたことが影響していると思えるヨレンタ。
コルベはヨレンタにとって(悪い人ではありませんでしたが)ものすごく人生に影響を与えた恩人というほどでもないでしょう。
それでもヨレンタの思想に影響を与えている点が、リアルだなぁと思います。
人は何気に見聞きした考えや言葉に影響を受けてしまうことがしばしばあるなぁと個人的には思います。
第20話の名言